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自民党党役員人事


岸田自民党の党役員人事が発表になりました。

 党四役は甘利明幹事長(72)=麻生派、高市早苗政調会長(60)=無派閥、福田達夫総務会長(54)=細田派、遠藤利明選対委員長(71)=谷垣グループ=です。これに党副総裁が置かれ、麻生太郎副総理兼財務相が内定しています。

 さらに、国対委員長に高木毅氏(65)=細田派、組織運動本部長に小渕優子氏(47)=竹下派、河野太郎広報本部長(58)=麻生派=の起用を決定しています。ここまでが党七役です。

 

 この顔ぶれを見ての雑感ですが…、

 まず、「バランスをとりつつも、意外と思い切った人事をしている」という印象です。細田派と麻生派の優遇が目立ち、特に麻生派で岸田支持を明確にした甘利氏の幹事長起用は、論功行賞という側面を持ちつつも、派閥の長である麻生氏を副総裁という名誉職に棚上げし、遠くない時期に引退に追い込むための布石と読めます(麻生氏の義弟である鈴木俊一氏を財務相に起用することで、麻生氏を内閣からうまく外したとも言えます)。河野太郎氏が今回、総裁候補として躓きましたので、麻生氏が引退しても、すんなり、麻生派が河野派になるかどうかは微妙と言えるでしょう。

 

 なお、麻生派の源流の一つが河野太郎氏の父である河野洋平氏の大勇会であり、大勇会は宏池会から分かれたものですから、将来的な大宏池会の結成を視野に入れたものとも言えます。同じ文脈が遠藤氏の選対委員長就任です。谷垣Gを岸田支持でまとめた遠藤氏への論功行賞ではあるが、谷垣Gの宏池会への吸収合併を視野に入れているものと思われます(谷垣Gはあの、加藤の乱で分裂した宏池会加藤派の系譜です)。

 

 高市早苗氏の政調会長起用は、岸田氏の長期政権志向への表れと言えるでしょう。重要閣僚や幹事長に抜擢すれば、高市氏がかなり有力な次期総裁候補になってしまいます。そのことは岸田氏から見れば面白くないでしょう。選挙で躓いた際などに倒閣の動きが党内から起こりかねません。河野太郎氏が総裁候補として、現時点では苦しいことを考えると、岸田氏が権力を維持するために、最も注意しなければならないのは高市氏です。党三役の政調会長ではあるが、2度目の就任であり、新鮮味はないというあたりに、岸田氏のバランス感覚が働いていると言えます。

 

 細田派(清和会)の優遇が目立ちますが、その中で福田達夫の総務会長は当選3回を考えると、抜擢人事と言えます。ただ、福田氏の総務会長起用は清和会における福田家と安倍家の暗闘(福田赳夫vs安倍晋太郎、福田康夫vs安倍晋三)を踏まえることで、より面白い人事に映ります

 福田達夫氏は世襲政治家の3代目ですが、政策に明るく、将来の総裁候補の呼び声も高い人物です。これまで小泉進次郎氏の影に隠れていましたが、小泉氏が河野太郎氏とともに躓きました。これまで、国体畑などの党務を地道にこなしてきていますが、ここで福田氏が総務会長として手腕を発揮すれば、一気に清和会の中で福田氏の存在感は高まるはずです。これで清和会において、安倍vs福田の暗闘が再燃すれば、岸田氏にとっては岸田&福田連合で清和会を牽制できる可能性が出てきます。岸田政権が海部俊樹内閣のように竹下派のパペット政権となるか、中曽根康弘内閣のように田中曽根内閣から脱却するかは、この後の福田達夫氏の総務会長としての手腕にかかっていると言えます。父の康夫氏も森政権で抜擢に近い形で官房長官に就任し、それを務めあげることで、一気に総裁候補に上昇しました。息子がそれに倣えるかどうか、注目です。

 

 河野太郎氏の広報本部長起用も、うまいなという感じはします。「雑巾がけ」をさせるイメージを与えることで、当面、河野氏が政治的なパフォーマンスが難しくなります。

 

 小渕優子氏の組織運動本部長起用は、参議院竹下派に影響力をなお持つ、青木幹雄氏への配慮と竹下派への論功行賞の2つを意味しています。茂木外相を留任させるでしょうから、それと合わせて、竹下派も主流派にとどめる配慮です。

 

 そして、党七役に二階派が起用されませんでした。また、副総裁の麻生氏内定は「二階氏を役職処遇しない」という意味でもあります。前回のブログでも述べたように、二階派一人負けの状況をよく表していると言えます。

 

 一方、岸田総裁は「政治スキャンダル」には無頓着と言えます。甘利幹事長をはじめ、遠藤選対委員長、高木毅国対委員長、小渕優子組織運動本部長は過去に大掛かりな政治スキャンダルがあった人々です。特に甘利氏は大臣室で100万円の賄賂受け取り、高木氏は醜聞、小渕氏はドリルと突っ込みどころは満載です。この陣営でも衆院選で過半数はとれると判断したのでしょうが、スキャンダルに国民が反応すれば、大幅な議席減もあり得るでしょう。大幅な議席減と緊急事態宣言解除による第六波が重なった時に、岸田政権が持つかどうかはやってみないと分からないという要素はあります。

 

 あとは閣僚人事ですね。野田聖子氏ら女性閣僚の数やポストが注目です。また、衆院選の公認問題、山口3区(林芳正vs河村健夫)、静岡6区(吉川赳vs細野豪志)は岸田派vs二階派ですので、特に注目です。