東大日本史対策


 東大日本史は文系全学部の2次試験で日本史を実施する。東大の2次試験における英・国・数・地歴の比率は1:1:1:1、なお、地歴は日本史・世界史・地理の中から2科目選択のため、正確には英・国・数・日史:世史(or地理)が2:2:2:1:1である。

 東大日本史は全て論述問題、大問4題で第1問が古代、第2問が中世、第3問が近世、第4問が近現代であり、原始からの出題は1982年以降、ない。今後もないと考えてよいだろう字数は大問1つあたり、150字前後であり、総字数は600字強である。

 大学受験の最高峰である東京大学。日本史の入試問題も受験日本史の問題の中で、最高峰の水準を誇ります。そのことは東大が2019年度入試から発表している「出題の意図」からもうかがうことができます。

 

以下、引用。2021年度「出題の意図」

「問題はいずれも、①日本史に関する基礎的な歴史的事象を、個別に記憶するのみならず、 覚えた事実を互いに関連づけ、統合的に運用する分析的思考を経た知識として習得しているか、②設問に即して、受験までに習得してきた知識と、設問において与えられた情報とを関連付けて分析的に考察できるか、③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現できるか、を問うています。歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互の間にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた理解の深さと、自らの理解を論理的に表現する力を測ろうとしています。」

 ここから、東大日本史では①:日本史の基本的な知識、②:設問と与えられた資料の分析力、③:論理的思考力&言語能力の3つが問われていると、整理することができます。「受験日本史の問題の中で、最高峰の水準」と上述しましたが、①と②の絶妙なバランスが東大日本史の特徴です。

 東大は地歴2科目を2次試験で課す唯一の大学である。指導の経験から言っても、地歴2科目の存在が不合格の要因となっている受験生は少なからず存在する。そのため、通史学習と並行して、早い段階から論述対策を意識したい。参照する教材としては、教科書は山川『詳説日本史』と山川『新日本史』を用意したい。一般に誤解があるが、東大日本史は資料文の要約で答えが導き出せるような安易な問題はほとんどない。旧センター試験で80~85%をクリアするレベルの知識は必要となる。鈴木和裕『時代と流れで覚える!日本史B用語』(文英堂)を使い、基本的な知識の整理をしておきたい。


 東大日本史の参考書としては『東大日本史の25ヵ年』(教学社)の参照を推奨する。ただし、25ヵ年の答案例は高度で受験生が絶対に書けなければといけないものではない点に注意したい。東大日本史は高得点を目指すのではなく、いかに40点をとれるか(より正確に言えば、世界史・地理と合わせて、75~80点が安定してとれる状況)を意識したい

 以下に示した答案例は、田中が独自に作成したものです。受験生が東大日本史に取り組むにあたって、答案例の1つとして参考にしてもらえればと思います。

 受験日本史の指導者の方にも参考にしていただければ幸いです。東大受験生を指導するにあたって、複数の答案例に触れながら、考えることは重要と考えます。答案例を使用の際は田中一平が作成した答案例であることを明記して、ご使用ください


更新履歴

 2022年3月26日、2022~1999年の答案例を公開しました。


東大日本史論述答案例

年度 第1問(古代) 第2問(中世) 第3問(近世) 第4問(近現代)  
2022年(22行) 律令制下での命令伝達の方法(2行・4行) 中世の院政と経済基盤の状況の変化(5行) 徳川綱吉期の社会・武士の変化(3行・2行) 明治中後期と大正・昭和初期における労働生産性の上昇(3行・3行)  
2021年(21行) 9世紀後半の国政運営の特徴(5行) 鎌倉時代の荘園(2行・3行) 宝永の大噴火からの復興政策における矛盾(2行・3行) 貴族院と第2次護憲運動(3行・3行)  
2020年(22行) 文字の普及とその背景(2行・4行) 祇園祭と戦国期京都における町の自治(5行) 江戸時代における暦の作成(2行・3行) 明治前期の軍隊と政治・社会(3行・3行)  
2019年(21行) 摂関政治期の貴族と年中行事・日記(1行・4行) 承久の乱以降の直獏関係(2行・3行) 長崎貿易における輸入品の変化とその背景(2行・3行) 第一次世界大戦期と1950年代前半の経済状況(3行・3行)  
2018年(22行) 藤原京の特徴(6行) 室町幕府の財政の特徴と徳政令(2行・3行) 異国船打払令とその背景(2行・3行) 教育勅語をめぐる動向(3行・3行)  
2017年(22行) 律令国家と東北地方の関係(2行・4行) 六波羅探題と鎮西探題における裁判実施の背景(2行・3行) 百姓の家の相続と女性の地位(2行・3行) 大正〜昭和初期の陸海軍と政党政治(3行・3行)  
2016年(22行) 律令制下の国司と郡司(2行・4行) 惣村と灌漑用水の安定(5行) 大船建造禁止令と江戸幕府の大名統制策(2行・3行) 近現代の経済発展と労働者の賃金動向(2行・4行)  
2015年(23行) 仏教受容の背景と神仏習合の展開(2行・4行) 御家人の所領分布とその経営手法(2行・4行) 近世の江戸・大坂間の商品流通(3行・2行) 都市化とマスメディアの発展による社会変化(3行・3行)  
2014年(21行) 古代における国政審議とその変遷(2行・4行) 室町文化における武士の役割(5行) 江戸時代の軍役・陣夫役と社会への影響(2行・3行) 明治憲法と民権派(3行・2行)  
2013年(25行) ワカタケル大王の時代の歴史的意義(6行) 奥州藤原氏政権と平氏政権と頼朝政権の対比(2行・2行・3行) 江戸幕府の支配体制とその変化(2行・3行) 橋本左内の政権構想と明治憲法体制(4行・3行)  
2012年(23行) 古代における軍事力の構成・性格の変化(6行) 院政期~鎌倉時代の仏教界の動向(2行・4行) 江戸時代半ば以降における農村の休日と若者組(3行・2行) 中国・ソ連からの日本人の復員・引揚げ(4行・2行)  
2011年(22行) 白村江の戦いとその影響(1行・5行) 室町幕府・守護体制(2行・1行・2行) 江戸時代前期の城普請役とその意義(3行・2行) 近代日本における男女別労働者数の変化とその背景(3行・3行)  
2010年(22行) 摂関政治期の貴族社会(6行) 中世の年貢品目の変化と商品流通の発展(2行・1行・2行) 17世紀前半の院内銀山と鉱山町(3行・2行) 井上外交の欧化政策に対する反発とその背景(6行)  
2009年(22行) 遣隋使・遣唐使の意義(6行) 豊臣秀吉の天下統一と惣無事(3行・1行・2行) 江戸時代の日中貿易と文化的交流(3行・2行) 1930年代の農業恐慌(5行)  
2008年(23行) 古代国家と東国(3行・3行) 中世の一揆と神仏への誓い(1行・2行・2行) 18世紀後半の食糧問題と寛政の改革(2行・4行) 明治憲法体制と政党内閣(2行・4行)  
2007年(23行) 8世紀における律令政府の銭貨政策(6行) 中世の禅宗文化と浄土真宗・日蓮宗の動向(3行・3行) 18世紀後半の学問発達(5行) 20世紀前半の対外関係(2行・4行)  
2006年(24 行) 奈良時代の政治と貴族のありかた(6行) 院政期における武士の台頭と平氏(2行・4行) 中・近世琉球の対外関係(2行・4行) 明治・大正期の鉄道の発達(1行・3行・2行)  
2005年(23行) 嵯峨朝の歴史的意義(6行) 御成敗式目の制定意図と朝幕関係(2行・4行) 江戸時代における軍事動員を可能とする制度(5行) 三権分立をめぐる帝国憲法と日本国憲法の共通点と相違点(6行)  
2004年(25行) 古代における文字文化の普及過程の歴史的背景(6行) 鎌倉~江戸時代の貨幣(2行・2行・3行) 幕藩体制と蝦夷地(6行) 地租改正と農地改革を通した近現代の土地制度(6行)  
2003年(25行) 律令政府の外交の本音と建て前(6行) 南北朝の内乱と武士の動向(2行・4行) 17世紀後半の歴史書編纂と当時の歴史観(3行・3行) 近代の農村と都市(2行・2行・3行)  
2002年(27行) 平安中・後期における浄土教と密教の受容(7行) 中・近世の大名支配と村・町(3行・4行・3行・4行) 日清戦争後~第1次大戦期までの日露関係(2行・4行)  2002年は第2問で中・近世融合、第3問で近代史が出題。  
2001年(21行) 律令制の税制における変化(5行) 鎌倉時代の荘園と地頭の権限強化(2行・2行・2行)

近世後期の村の変化と化政文化の特徴(5行)

明治時代の日本における銅(2行・3行)  
2000年(24行)  律令制の駅制と動揺(3行・4行) 豊臣政権のキリスト教禁令と一向一揆(2行・2行・2行) 幕末の横浜鎖港をめぐる外交交渉(1行・3行・2行) 1930年代の前半の経済政策・経済状況(5行)  
1999年(26行) 7世紀の戸籍作成の進展と律令国家の軍事体制の特色(7行) 室町時代の文化の特徴(6行) 江戸時代の商家の相続(5行) 近現代日本における教育制度と内容の変遷(8行)